2026年5月23日土曜日

ブラームス 交響曲第3番ヘ長調_トスカニーニ

 ブラームス 交響曲第3番ヘ長調OP.90,トスカニーニ(C)フィルハーモニー管弦楽団<1952年10月1日;ロイヤル・フェスティバル・ホールライブ録音>を聴こう。この時期のフィルハーモニア管は、デニス・ブレイン(hr)シドニー・サトクリフ(ob)ガレス・モリス(Fl)フレデリック・サーストン(Cl)セシル・ジェームズ(Fg)とロンドン最高峰の名手が揃ったオーケストラ。柔らかく、ふくよかで、気品のある木管・金管の響きが、トスカニーニの「厳格なフレーム」の中に流れ込む。白眉は、第3楽章に見る「哀愁のカンタービレ」。まず弦楽群はチェロの主題、そしてそれがヴァイオリンへと引き継がれていく場面では、トスカニーニのイン・テンポの要求を守りながらも、非常に艶やかで、深く、温かいロマンティシズムを湛えた歌を聴かせてくれます。デニス・ブレインのホルン、トスカニーニのタイトなテンポ感の中に、ブレインは信じがたいほど豊かなニュアンスと、どこか遠くを顧みるような、胸を締め付けるほど美しいピアニッシモを吹き込む。ブレインのホルンに絡む、ガレス・モリス(Fl)とシドニー・サトクリフ(ob)の演奏も素晴らしい。特にモリスの木製フルートの素朴で芯のある音が、サトクリフの甘く哀愁を帯びたオーボエと溶け合い、トスカニーニが構築する堅牢な構造の中に、一抹の柔らかな光を投げかける。終楽章、フィナーレに向けて音楽が白熱していく姿が浮かび上がる。トスカニーニのタクトは決して理性を失わず、凄まじい音響の渦の中でも冷静そのもの。そしてブラッドショーのティンパニはトスカニーニの熾烈な情熱をそのまま叩きつけたような、凄まじいダイナミズムと推進力だ。圧巻!!


2026年5月18日月曜日

モーツァルト 弦楽四重奏曲第13番_バリリ弦楽四重奏団

 モーツァルト 遡って弦楽四重奏曲を聴いていこう。その⑪

弦楽四重奏曲第13番ニ短調K.173,バリリ弦楽四重奏団<1955年録音>この第13番は初期の「ウィーン四重奏曲」とよばれ、そのラスト6曲目にあたる。冒頭のユニゾンから、決して現代のカルテットのような過度なエッジは立てないものの、内省的で深い響きを持って引き込まれます。ワルター・バリリの哀愁を帯びた、しかし凛とした歌い回しが絶品です。第2楽章、長調(変ロ長調)に転じますが、ここでのウィーン風の優美な身のこなし、そして各声部の自発的な対話こそ、バリリ四重奏団の真骨頂か。終楽章、彼らの演奏は、対位法的な構造をガチガチの厳格さで提示するのではなく、4つの楽器がまるで親密な会話を交わすかのように、有機的かつ流麗にフーガを編み上げていきます。技巧の誇示や誇大妄想的な表現とは無縁の、古き良きウィーンの宮廷的な品格と、青春期のモーツァルトの情熱が同居した演奏といえよう。バリリ弦楽四重奏団が、第14番をのぞくハイドンセットを録音しなかったことは惜しまれる。



2026年5月10日日曜日

シューベルト 交響曲第9番_ベーム

 シューベルト 交響曲第9番ハ長調D.944「ザ・グレート」、ベーム(C)シュターツカペレ・ドレスデン(1979年ライブ録音)で聴こう。「ザ・グレート」は、20世紀初頭までは、7番、そして今CDのように20世紀後半は総じて9番、現在では、特に新全集や研究書では「第8番」となるだろうか。8(9)番としているCDも多く見受けられる。なお、「ザ・グレート」という名称自体は、“偉大”と思われがちだが、大間違いだ!!6番ハ長調D589が<小ハ長調>そしてD.944が<大ハ長調>でだから{グレート}なのだ。覚えておこう!!さて第1楽章;冒頭ペーター・ダムのホルンソロが、極めて深い静寂の中から響き渡る。テンポはゆったりしており、まるで聖歌のような神聖さを漂わよわせる。SKDの厚みのある低弦、ゲルベルトの硬く締まった、しかし深く響くティンパニーが重厚な推進力を生み出す。そしてコーダ終盤、主題が回帰し巨大なクライマックスを築く場面で、オーケストラを底から支える強靭な打ち込みがたまりません。第2楽章、クルト・マーンのオーボエの音色が、どこか鄙びて切ない歌を奏でる。弦楽群の見せる峻厳なぎざみとのコントラスト。今時の言葉で言うなら「エモい」か。第3楽章、リズミカルだけのスケルツォではなく、まるで大地を踏みしめるような力強さがあります。SKDの金管群の強奏は決して耳に刺さらず、オーケストラ全体が豊かに鳴り響く。中間部のトリオは、弦楽器と木管楽器が奏でるウィンナ・ワルツ風。ここはSKDの真骨頂。第4楽章、執念の三連符!!当時84歳という高齢のベーム、ここでは信じられないほどのエネルギーを爆発させている。曲を支配する3連符のリズムが、SKDの正確無比なアンサンブルによって巨大なうねりとなる。終盤、コーダに向かって一段とテンポを煽り、オーケストラが火の玉のようになって突進する。支えるゲルベルトのティンパニーの正確かつ情熱的な刻みがライブ特有の爆発的なエネルギーを生じさせる。その中で、画像楽譜で示したベートーヴェンの第9の歓喜の歌のオマージュ登場。SKDの木管群オーボエのクルト・マーンやフルートのヨハネス・ヴァルターらは、この旋律を変に強調せず非常に素朴で、どこか懐かしい響きで奏でる。それが一時の安らぎと高揚感を与える。そして、コーダ:ベームはBPOスタジオ録音ではインテンポだが、このドレスデン・ライブにおいては、明らかにテンポを上げ、「凄まじい加速と爆発」を見せる。終演後CDには入っていないが、沸き起こる聴衆の怒濤のようなブラボーと拍手が聞こえてきそうだ!!ベームには、ザルツブルグ音楽祭のチェコフィルとの有名なチャイコ4番の火の玉演奏があるが,それに匹敵する「男ベーム」の演奏であろう。



2026年5月9日土曜日

モーツァルト 弦楽四重奏曲 第14番_エマーソン弦楽四重奏団

 モーツァルト 遡って弦楽四重奏曲を聴いていこう。その⑩

弦楽四重奏曲 第14番 ト長調 K.387「春」。エマーソン弦楽四重奏団(1988-91録音)にて聴く。「ハイドンセット」1曲目。モーツァルトの弦楽四重奏曲で私の一番のお気に入りの曲だ。第1楽章(Allegro vivace assai):は、溌溂としてト長調の色彩が持つ、生命力にあふれた瑞々しさを感じさせてくれる。ただ、モーツァルト特有の憂いを半音階的な動きが演じ単に明るいだけでなく深みのある楽章に仕上がっている。第2楽章(Menuetto. Allegretto):は、文字通りメヌエットとトリオ置く、独創的な楽章だ。メヌエットの中心主題はpとfの急激な交替をふくみ、拍の変化も2拍目・3拍目にアクセントを置くなど面白い。そしてクロッマティックな動きがここでもみられる。ト短調のトリオ。その悲劇性をなにゆえ取り入れたのか私にはわからない。誰か教えてくれ!!第3楽章(Andante cantabile):は、息の長い、抒情的な旋律が美しい楽章だ。私は特にチェロの動きがたまらなく好きだ。第4楽章(Molto allegro):は、驚愕だ!「フガート」と「ソナタ形式」が見事に融合、第1主題、ジュピター音型を絡め、テーマがチェロから始まるのも面白い。第2主題は、フーガの厳格な動きの合間に、突如として軽快で優美な旋律、ここは第1ヴァイオリンが主旋律を歌い、他が伴奏する「主旋律+(ホモフォニー)」のスタイルだ。すなわち、厳格なフーガで始まりながら、気づけば軽やかなソナタ形式の旋律にすり替わっているという、鮮やかな「場面転換」。展開部は、真骨頂だ。第1主題のフーガがさらに複雑に絡み合い、転調を繰り返しながらドラマチックな緊張感を高めていく。そして圧巻のコーダ!激しいフーガの応酬が一段落した後、音楽は急に静まり返ります。第1楽章を彷彿とさせるような優雅で静かなフレーズが繰り返され、最後は「ささやくような弱音」で、消え入るように幕を閉じる。ブラボーブラボーだろう。エマーソンSQは、このスピード感の中でも、全声部が独立して聴こえてくる解像度の高さは目を見張るものがある。まさに、のちのK.551へつながる名曲中の名曲である。




2026年5月7日木曜日

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲_オイストラフ

 ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.61、ダヴィド・オイストラフ(V)クリュイタンス フランス放送国立管弦楽団(1958年録音)を聴こう。フランス放送国立管弦楽団のしなやかで透明感のある響きが、オイストラフの骨太なソロを優雅に引き立てる。一切の迷いがないボウイングが生む太く艶やかな音色が、大河のような流れを作る。カデンツァはクライスラー版を採用。技巧の完璧さと音楽的な深み。「鋼の意志と絹の音色」と言われたオイストラフの真骨頂!第2楽章;Larghettoは、木管群の音色は柔らかく、オイストラフのヴァイオリンと溶け合う。それでなくても美しい楽章を天上へと導く。アンドレ・セネダによるバソンの音色は、明るく鼻にかかったようで、どこか切なさを帯びたヴィブラートがあり、オイストラフの豊潤な音色と絶妙なコントラストを生んでいる。第3楽章、Rondo (Allegro)は、一転オイストラフの見事なテクニックが、飛び跳ねるロンドのリズムを刻み、力強いダブル・ストップが緊張感を高める。しかし、このコンビは、決して粗野にならず気品を保ちフィナーレへと駆け抜けてくれる。王者の風格!!ちなみにこのヴァイオリン協奏曲は、ピアノ協奏曲に編曲されている。ご存じベートーヴェンのピアノ協奏曲として完成した曲は第1番〜第5番「皇帝」の5曲だが、実は、この編曲を「ピアノ協奏曲 作品61a」として「ピアノ協奏曲第6番」と呼ぶこともある。もう一つある<Hess 15>は未完成。



2026年5月1日金曜日

チャイコフスキー 交響曲第5番_マゼール

チャイコフスキー交響曲第5番ホ短調Op.64,マゼール(C)ウィーンフィル<1963-64録音;DECCA>で聴く。

33歳のマゼールのクリスタルで硬質な、輪郭を発揮させるメリハリのある造形嗜好にウィーンフィルのしなやかで甘美な音色が何故か融合し面白い仕上がりとなっている。

第1楽章冒頭、アルフレート・プリンツのウィンナ・クラリネット暗く、深みがありながらも、芯の通った密度の高い音色から始まる。マゼールの筋肉質でタイトな嗜好に、プリンツの知的でコントロールされた吹き方が、演奏全体の緊張感を高める。

第2楽章、フライベルクのウィンナ・ホルンの芳醇な音色、柔らかく、かつ深みのある音色がマゼールの明晰な解釈の中に絶妙な叙情性を添える。ロレンズのオーボエは、ウィーン・フィルの木管セクションらしい、素朴ながらも気品のある歌い回し。マゼールの端正な造形の中で、ロレンズらによるウィーン伝統の木管の響きは、冷徹な演奏に温かみや「ウィーンの体温」を与える重要な役割を果たしているといえよう。パンチの効いたティンパニの強打も効果絶大。ホッホライナーの「ヤギ皮」ヘッドの独特の響きは、非常に明快なアタックがありつつも、その後の響きにはウィーン・フィル特有の柔らかく深い余韻が残り嬉しい。

終楽章、序奏は中庸のテンポで決して情感に溺れない。オーケストラは、主部になると一気に厚み増し、再現部は輝かしくもある。終結部の弦による「運命動機」も、輝きに溢れ、コーダのヴォービッシュを中心とするトランペットは品位を失わず神々しい。やはり面白い。