2026年7月4日土曜日

モーツァルト 弦楽四重奏曲第11番_バリリ弦楽四重奏団

 モーツァルト 遡って弦楽四重奏曲を聴いていこう。その⑬

弦楽四重奏曲第11番 変ホ長調 K. 171,バリリ弦楽四重奏団で聴く。6曲ある『ウィーン四重奏曲』のうちの4曲目。ハイドンの作品17・20「太陽四重奏曲」をダイレクトに吸収しようとした時代です。まず第1楽章に序奏(アダージョ)を置く試みは、そのハイドンにもない。モーツァルトにしても、のちの19番「不協和音」とこの曲だけである。白眉は、第3楽章、すべての楽器が弱音器(ミュート)をつけて演奏します。オペラのアリアを思わせる、美しくも切ない情感に満ちた楽章です。これぞモーツァルトという、ハ長調の明るくもどこか儚い憂鬱感。一番のお気に入りは、ハ短調(同主調)へ転調し、第1ヴァイオリンの先導に対して、第2ヴァイオリンやヴィオラが細かく動きながら応える、対位法的な「掛け合い」。バリリの第1ヴァイオリンは、決して音を張り上げず、第2ヴァイオリン(クロチャク)やヴィオラ(モラヴェッツ)が、ウィーン・フィル特有の柔らかくふくよかな音色で、まるでお互いを目で合図し合っているかのように自然な息遣いで絡み合う、この「歌の受け渡し」の滑らかさよ。Good Job!!


2026年6月28日日曜日

ラフマニノフ ピアノ協奏曲第4番_ミケランジェリ

ラフマニノフ ピアノ協奏曲第4番ト短調Op.40、ルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ(ピアノ)エットーレ・グラチス指揮/フィルハーモニア管弦楽団(1957年録音)にて聴こう。

この4番を聴くといつも思うのは、「砂の器」の和賀英良が弾く<ピアノ協奏曲【宿命】>である。曲が似ているとかではない。4番こそが、ラフマニノフにとっての一生・宿命の曲のように感じるからだ。たぶん、砂の器は曲としては2番のオマージュだと思うが。

第2番・第3番ほど甘美な旋律を前面に出さず、ジャズ的なリズムや複雑な和声を織り込んだ4番。ロシアから亡命してアメリカで過ごしたラフマニノフのある意味、真骨頂かもしれない。

第2楽章;ラルゴは白眉。まるで夜明け前の湖面のようだ。

ミケランジェリの弱音は、ほとんど音が消え入りそうなほど繊細なのに、芯が失われない。弦楽器との対話も絶妙で、グラチスの伴奏は決して前へ出ず、ピアノを柔らかく包み込む。「美しい」というより気高い演奏だ。ミケランジェリが、無名のグラチスを気に入っていたわけがわかる。


2026年6月25日木曜日

モーツァルト クラリネット協奏曲_ゴイザー

モーツァルト:クラリネット協奏曲 イ長調 K.622、ハインリヒ・ゴイザー フリッチャイ指揮 ベルリン放送交響楽団にて聴く(1957年録音MONO)。カール・ライスターの師であるゴイザーは伝統的なエーラー式(ドイツ管)のクラリネットを使用している。ゴイサーの太く、温かみがあり、どこか素朴でありながらも深い響きが魅力的だ。緩徐楽章:adagioは白眉だ。ゴイザーの息の長いフレーズと、オーケストラの弦楽器の弱音が見事に溶け合い、モーツァルトの白鳥の歌にふさわしい「深い孤独」と「疲労感」を表現してくれている。


2026年6月22日月曜日

エルガー  弦楽セレナーデホ短調_シノーポリ

エルガー  弦楽セレナーデホ短調OP.20、シノーポリ フィルハーモニー管弦楽団(1990年録音)を聴こう。

エルガーには、エニグマ変奏曲の「ニムロッド」という有名な美しい曲がある。それに勝るとも劣らないのが、第2楽章:Larghettoだ。エルガーが遺した最も美しい緩慢楽章の一つらしいっす。息の長い、祈るようなメロディが弦楽器の濃厚な響きによって歌い上げらる。中間部で一度大きく感情が高ぶり、再び静けさを取り戻していく様、後年の「ニムロッド」にも通じるのだろう。エルガー特有の高貴な抒情性に満ちている。1楽章も、ヴィオラが刻む独特のリズムに乗って、ヴァイオリンが切なくも美しい第1主題を奏で、3楽章で、コーダに差し掛かると、それが再登場する。全体を優しく包み込むような「循環形式」か。最後はホ長調の明るく穏やかな和音の中に、静かに余韻を残して消え入るように曲を閉じる。シノーポリのLarghettoは、イン・テンポで流していく箇所は皆無と言ってよく、ルバートを巧みに用いて、一つのフレーズをこれでもかと引き延ばす。お得意の「沈黙」や「タメ」に、きわめて濃厚なエロティシズムと情念が宿る。やはり、通常よりも30秒も長い(4.5~5.0分の曲で)。やりすぎか?でも美しい!


2026年6月13日土曜日

R.シュトラウス メタモルフォーゼ ン~23の独奏弦楽器のための習作~_ケンペ

 R.シュトラウス 「メタモルフォーゼ ン~23の独奏弦楽器のための習作~」、ケンペ(C)シュターツカペレ・ドレスデン<1973年、ドレスデンの聖ルカ教会にて録音>、23の内訳は(10のヴァイオリン、5のヴィオラ、5のチェロ、3のコントラバス)である。

圧倒的なレガート・音響美で、しかも「悲劇的な死への恐怖」を投影するがごとき巨匠らの演奏とは一線を画し、あくまで冷静に淡々と一点の曇りもなく旋律を紡いでゆく。それが、「喪失感」と「静かな祈り」を深く突き刺す。SKD特有の「重い・しかし柔らかい」弦の音色が、ケンペの透明な指揮と組み合わさることで、この曲に得も言われぬ「気品」を与えている。



2026年6月8日月曜日

モーツァルト 弦楽四重奏曲第12番_アマデウス弦楽四重奏団

 モーツァルト 遡って弦楽四重奏曲を聴いていこう。その⑫

弦楽四重奏曲第12番変ロ長調K.172,アマデウス弦楽四重奏団で聴く。6曲ある『ウィーン四重奏曲』のうちの5曲目。ご存じハイドンの作品20「太陽四重奏曲」の衝撃をダイレクトに吸収しようとした時代です。この曲では、第3楽章のメヌエットが最も顕著です。冒頭、第1ヴァイオリンではなくヴィオラが主導権を握って語りかけ、それに第1ヴァイオリンが応えるという構造になっています。ヴィオラにこのような重要な役割を与えたのは、ハイドンの「全楽器の平等化」に強い刺激を受けた結果でしょう。また第1楽章や第4楽章では、ハイドン譲りのポリフォニックなテクスチュアが随所に顔を覗かせます。ホモフォニーに終始せず、各楽器が追いかけっこをするような緊密なアンサンブルに、その影響が見て取れます。ハイドンが持つ「構築性と知的なユーモア」に圧倒されたモーツァルトが、それまで得意としていたイタリア風の「あふれる歌心」をベースに残しながらも、必死にドイツ・ウィーン風の「緻密な骨組み」を組み込もうと格闘した、その絶妙なバランスこそが、この曲の独自の魅力になっているのでしょう。



2026年6月7日日曜日

リムスキー・コルサコフ シェエラザード_ドラティ

 リムスキー・コルサコフ「シェエラザード」Op.35、ドラティ(C)ミネアポリス交響楽団<0958年録音;Mercury>にて聴く。

男気ドラティの引き締まった硬派のオーケストレーション。「Mercury」レーベルの音の良さも相俟ってダイナミックで生々しい音響が聴こえる。そして忘れてはならないのが、ヴァイオリンソロだ。コンサートマスター:ラファエル・ドルイアンである。ご存じ、ドルイアンはこの後、セルに招かれクリーブランドへ、セル亡き後は、ブーレーズが三顧の礼でニューヨークフィルのコンマスへ迎えている人物。この1958年は、ドラティの下、ミネアポリスのコンマスなのだ!過度なロマンティシズムに溺れることなく、非常に精確で洗練された気品を保ち、男気ドラティのシャープなダイナミズムと推進力とのコントラストが見事。妖艶かつ知的なヴァイオリンが王妃の凛とした佇まいを匂わせる。各楽器の分離の良さと解像度の高さは、Mercuryならではです。



2026年5月23日土曜日

ブラームス 交響曲第3番ヘ長調_トスカニーニ

 ブラームス 交響曲第3番ヘ長調OP.90,トスカニーニ(C)フィルハーモニー管弦楽団<1952年10月1日;ロイヤル・フェスティバル・ホールライブ録音>を聴こう。この時期のフィルハーモニア管は、デニス・ブレイン(hr)シドニー・サトクリフ(ob)ガレス・モリス(Fl)フレデリック・サーストン(Cl)セシル・ジェームズ(Fg)とロンドン最高峰の名手が揃ったオーケストラ。柔らかく、ふくよかで、気品のある木管・金管の響きが、トスカニーニの「厳格なフレーム」の中に流れ込む。白眉は、第3楽章に見る「哀愁のカンタービレ」。まず弦楽群はチェロの主題、そしてそれがヴァイオリンへと引き継がれていく場面では、トスカニーニのイン・テンポの要求を守りながらも、非常に艶やかで、深く、温かいロマンティシズムを湛えた歌を聴かせてくれます。デニス・ブレインのホルン、トスカニーニのタイトなテンポ感の中に、ブレインは信じがたいほど豊かなニュアンスと、どこか遠くを顧みるような、胸を締め付けるほど美しいピアニッシモを吹き込む。ブレインのホルンに絡む、ガレス・モリス(Fl)とシドニー・サトクリフ(ob)の演奏も素晴らしい。特にモリスの木製フルートの素朴で芯のある音が、サトクリフの甘く哀愁を帯びたオーボエと溶け合い、トスカニーニが構築する堅牢な構造の中に、一抹の柔らかな光を投げかける。終楽章、フィナーレに向けて音楽が白熱していく姿が浮かび上がる。トスカニーニのタクトは決して理性を失わず、凄まじい音響の渦の中でも冷静そのもの。そしてブラッドショーのティンパニはトスカニーニの熾烈な情熱をそのまま叩きつけたような、凄まじいダイナミズムと推進力だ。圧巻!!


2026年5月18日月曜日

モーツァルト 弦楽四重奏曲第13番_バリリ弦楽四重奏団

 モーツァルト 遡って弦楽四重奏曲を聴いていこう。その⑪

弦楽四重奏曲第13番ニ短調K.173,バリリ弦楽四重奏団<1955年録音>この第13番は初期の「ウィーン四重奏曲」とよばれ、そのラスト6曲目にあたる。冒頭のユニゾンから、決して現代のカルテットのような過度なエッジは立てないものの、内省的で深い響きを持って引き込まれます。ワルター・バリリの哀愁を帯びた、しかし凛とした歌い回しが絶品です。第2楽章、長調(変ロ長調)に転じますが、ここでのウィーン風の優美な身のこなし、そして各声部の自発的な対話こそ、バリリ四重奏団の真骨頂か。終楽章、彼らの演奏は、対位法的な構造をガチガチの厳格さで提示するのではなく、4つの楽器がまるで親密な会話を交わすかのように、有機的かつ流麗にフーガを編み上げていきます。技巧の誇示や誇大妄想的な表現とは無縁の、古き良きウィーンの宮廷的な品格と、青春期のモーツァルトの情熱が同居した演奏といえよう。バリリ弦楽四重奏団が、第14番をのぞくハイドンセットを録音しなかったことは惜しまれる。



2026年5月10日日曜日

シューベルト 交響曲第9番_ベーム

 シューベルト 交響曲第9番ハ長調D.944「ザ・グレート」、ベーム(C)シュターツカペレ・ドレスデン(1979年ライブ録音)で聴こう。「ザ・グレート」は、20世紀初頭までは、7番、そして今CDのように20世紀後半は総じて9番、現在では、特に新全集や研究書では「第8番」となるだろうか。8(9)番としているCDも多く見受けられる。なお、「ザ・グレート」という名称自体は、“偉大”と思われがちだが、大間違いだ!!6番ハ長調D589が<小ハ長調>そしてD.944が<大ハ長調>でだから{グレート}なのだ。覚えておこう!!さて第1楽章;冒頭ペーター・ダムのホルンソロが、極めて深い静寂の中から響き渡る。テンポはゆったりしており、まるで聖歌のような神聖さを漂わよわせる。SKDの厚みのある低弦、ゲルベルトの硬く締まった、しかし深く響くティンパニーが重厚な推進力を生み出す。そしてコーダ終盤、主題が回帰し巨大なクライマックスを築く場面で、オーケストラを底から支える強靭な打ち込みがたまりません。第2楽章、クルト・マーンのオーボエの音色が、どこか鄙びて切ない歌を奏でる。弦楽群の見せる峻厳なぎざみとのコントラスト。今時の言葉で言うなら「エモい」か。第3楽章、リズミカルだけのスケルツォではなく、まるで大地を踏みしめるような力強さがあります。SKDの金管群の強奏は決して耳に刺さらず、オーケストラ全体が豊かに鳴り響く。中間部のトリオは、弦楽器と木管楽器が奏でるウィンナ・ワルツ風。ここはSKDの真骨頂。第4楽章、執念の三連符!!当時84歳という高齢のベーム、ここでは信じられないほどのエネルギーを爆発させている。曲を支配する3連符のリズムが、SKDの正確無比なアンサンブルによって巨大なうねりとなる。終盤、コーダに向かって一段とテンポを煽り、オーケストラが火の玉のようになって突進する。支えるゲルベルトのティンパニーの正確かつ情熱的な刻みがライブ特有の爆発的なエネルギーを生じさせる。その中で、画像楽譜で示したベートーヴェンの第9の歓喜の歌のオマージュ登場。SKDの木管群オーボエのクルト・マーンやフルートのヨハネス・ヴァルターらは、この旋律を変に強調せず非常に素朴で、どこか懐かしい響きで奏でる。それが一時の安らぎと高揚感を与える。そして、コーダ:ベームはBPOスタジオ録音ではインテンポだが、このドレスデン・ライブにおいては、明らかにテンポを上げ、「凄まじい加速と爆発」を見せる。終演後CDには入っていないが、沸き起こる聴衆の怒濤のようなブラボーと拍手が聞こえてきそうだ!!ベームには、ザルツブルグ音楽祭のチェコフィルとの有名なチャイコ4番の火の玉演奏があるが,それに匹敵する「男ベーム」の演奏であろう。



2026年5月9日土曜日

モーツァルト 弦楽四重奏曲 第14番_エマーソン弦楽四重奏団

 モーツァルト 遡って弦楽四重奏曲を聴いていこう。その⑩

弦楽四重奏曲 第14番 ト長調 K.387「春」。エマーソン弦楽四重奏団(1988-91録音)にて聴く。「ハイドンセット」1曲目。モーツァルトの弦楽四重奏曲で私の一番のお気に入りの曲だ。第1楽章(Allegro vivace assai):は、溌溂としてト長調の色彩が持つ、生命力にあふれた瑞々しさを感じさせてくれる。ただ、モーツァルト特有の憂いを半音階的な動きが演じ単に明るいだけでなく深みのある楽章に仕上がっている。第2楽章(Menuetto. Allegretto):は、文字通りメヌエットとトリオ置く、独創的な楽章だ。メヌエットの中心主題はpとfの急激な交替をふくみ、拍の変化も2拍目・3拍目にアクセントを置くなど面白い。そしてクロッマティックな動きがここでもみられる。ト短調のトリオ。その悲劇性をなにゆえ取り入れたのか私にはわからない。誰か教えてくれ!!第3楽章(Andante cantabile):は、息の長い、抒情的な旋律が美しい楽章だ。私は特にチェロの動きがたまらなく好きだ。第4楽章(Molto allegro):は、驚愕だ!「フガート」と「ソナタ形式」が見事に融合、第1主題、ジュピター音型を絡め、テーマがチェロから始まるのも面白い。第2主題は、フーガの厳格な動きの合間に、突如として軽快で優美な旋律、ここは第1ヴァイオリンが主旋律を歌い、他が伴奏する「主旋律+(ホモフォニー)」のスタイルだ。すなわち、厳格なフーガで始まりながら、気づけば軽やかなソナタ形式の旋律にすり替わっているという、鮮やかな「場面転換」。展開部は、真骨頂だ。第1主題のフーガがさらに複雑に絡み合い、転調を繰り返しながらドラマチックな緊張感を高めていく。そして圧巻のコーダ!激しいフーガの応酬が一段落した後、音楽は急に静まり返ります。第1楽章を彷彿とさせるような優雅で静かなフレーズが繰り返され、最後は「ささやくような弱音」で、消え入るように幕を閉じる。ブラボーブラボーだろう。エマーソンSQは、このスピード感の中でも、全声部が独立して聴こえてくる解像度の高さは目を見張るものがある。まさに、のちのK.551へつながる名曲中の名曲である。




2026年5月7日木曜日

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲_オイストラフ

 ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.61、ダヴィド・オイストラフ(V)クリュイタンス フランス放送国立管弦楽団(1958年録音)を聴こう。フランス放送国立管弦楽団のしなやかで透明感のある響きが、オイストラフの骨太なソロを優雅に引き立てる。一切の迷いがないボウイングが生む太く艶やかな音色が、大河のような流れを作る。カデンツァはクライスラー版を採用。技巧の完璧さと音楽的な深み。「鋼の意志と絹の音色」と言われたオイストラフの真骨頂!第2楽章;Larghettoは、木管群の音色は柔らかく、オイストラフのヴァイオリンと溶け合う。それでなくても美しい楽章を天上へと導く。アンドレ・セネダによるバソンの音色は、明るく鼻にかかったようで、どこか切なさを帯びたヴィブラートがあり、オイストラフの豊潤な音色と絶妙なコントラストを生んでいる。第3楽章、Rondo (Allegro)は、一転オイストラフの見事なテクニックが、飛び跳ねるロンドのリズムを刻み、力強いダブル・ストップが緊張感を高める。しかし、このコンビは、決して粗野にならず気品を保ちフィナーレへと駆け抜けてくれる。王者の風格!!ちなみにこのヴァイオリン協奏曲は、ピアノ協奏曲に編曲されている。ご存じベートーヴェンのピアノ協奏曲として完成した曲は第1番〜第5番「皇帝」の5曲だが、実は、この編曲を「ピアノ協奏曲 作品61a」として「ピアノ協奏曲第6番」と呼ぶこともある。もう一つある<Hess 15>は未完成。



2026年5月1日金曜日

チャイコフスキー 交響曲第5番_マゼール

チャイコフスキー交響曲第5番ホ短調Op.64,マゼール(C)ウィーンフィル<1963-64録音;DECCA>で聴く。

33歳のマゼールのクリスタルで硬質な、輪郭を発揮させるメリハリのある造形嗜好にウィーンフィルのしなやかで甘美な音色が何故か融合し面白い仕上がりとなっている。

第1楽章冒頭、アルフレート・プリンツのウィンナ・クラリネット暗く、深みがありながらも、芯の通った密度の高い音色から始まる。マゼールの筋肉質でタイトな嗜好に、プリンツの知的でコントロールされた吹き方が、演奏全体の緊張感を高める。

第2楽章、フライベルクのウィンナ・ホルンの芳醇な音色、柔らかく、かつ深みのある音色がマゼールの明晰な解釈の中に絶妙な叙情性を添える。ロレンズのオーボエは、ウィーン・フィルの木管セクションらしい、素朴ながらも気品のある歌い回し。マゼールの端正な造形の中で、ロレンズらによるウィーン伝統の木管の響きは、冷徹な演奏に温かみや「ウィーンの体温」を与える重要な役割を果たしているといえよう。パンチの効いたティンパニの強打も効果絶大。ホッホライナーの「ヤギ皮」ヘッドの独特の響きは、非常に明快なアタックがありつつも、その後の響きにはウィーン・フィル特有の柔らかく深い余韻が残り嬉しい。

終楽章、序奏は中庸のテンポで決して情感に溺れない。オーケストラは、主部になると一気に厚み増し、再現部は輝かしくもある。終結部の弦による「運命動機」も、輝きに溢れ、コーダのヴォービッシュを中心とするトランペットは品位を失わず神々しい。やはり面白い。 



2026年4月26日日曜日

モーツァルト 弦楽四重奏曲 第15番 ニ短調 _エマーソン弦楽四重奏団

 モーツァルト 遡って弦楽四重奏曲を聴いていこう。その⑨

弦楽四重奏曲 第15番 ニ短調 K.421。エマーソン弦楽四重奏団(1988-91録音)にて聴く。15番は、ハイド ンセットの中で唯一短調で書かれた作品。ニ短調は、モーツァルトにとっては、ト短調と同じくある意味特別な調性と言えよう。『ピアノ協奏曲第20番 K.466』、歌劇『ドンジョバンニ K.527』『レクイエムK.626』などと並べればご理解いただけるだろう。いずれも死と直面した独特の世界観・緊張感が、そこに は存在する。この15番も全楽章を通じて、抑制された哀しみと、時折現れる激しい情熱が交錯する。第1楽章では、第1主題の動機が執拗に繰り返され、カノン風に絡み合うことで、逃げ場のない焦燥感が強調される。第3楽章のメヌエットでは、鋭い(付点音符)のリズムが、宮廷舞曲としての優雅さをかき消し、むしろ峻厳さを強調する。終楽章では、シチリアーナ(6/8の舞曲)のリズムにより、悲哀や別離の印象がより 強く感じられる。15番が作曲されたのは、長男ライムント誕生し、わずか2か月後に死去した時期に相当す る。いずれにしても、モーツァルトの短調は、単に音楽的「美学」というよりもモーツァルトの内なる暗  黒を覗きみるような悲しさがまつろう。



2026年4月23日木曜日

タリス 40声のモテット「Spem in Alium」_サマリー

 トーマス・タリス 40声のモテット「Spem in Alium」サマリー(C)オックスフォード・カメラータにて聴く。<各5声部からなる8群>やはりこの曲は、ヘッドフォンで。しばらくポリフォニックな楽想が、つづきホモフォニックな楽想で40声が出現、その後再びポリフォニックな楽想となり、ホモフォニック表現で40声・・・計3箇所ゲネラル・パウゼが40声のトゥッティと対置する。

2026年4月19日日曜日

モーツァルト オーボエ四重奏曲_ハウヴェ


モーツァルト:オーボエ四重奏曲ヘ長調 K.370(368b)、オーボエ五重奏曲ハ短調 K.406(516b)。。。ヨリス・ファン・デン・ハウヴェ(Ob)、ザルツブルク・ソロイスツ(2002年録音)を聴く。K.370は、1777年にモーツァルトが母と二人でマンハイムを訪れた際、意気投合した、オーボエ奏者フリード リヒ・ラムにかの有名なK.314の協奏曲をプレゼントしたが、3年後にミュンヘンで再会した際に同じくラム のために書かれたものである。k.406は、弦楽五重奏曲第2番のオーボエ五重奏曲版である。何故、弦楽五重 奏曲のオーボエ版があるのかというと、もともとK.406は、『セレナード第12番 ハ短調(『ナハトムジー      ク』)』(K. 388)を編曲したもので、K.388は、2本ずつのオーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルンで 編成されているのだから、オーボエ五重奏曲に編成しても全く違和感がない。弦楽五重奏の第1ヴァイオリン をオーボエに置き換えた編成(Ob, Vn, 2Va, Vc)となる。もっともこの曲は、フルート、クラリネット、サク ソフォーンなど様々な編曲が存在するが・・・                             k.370の白眉は、第3楽章Rondeau: Allegro。途中、弦楽器が 6/8 拍子を刻む中、オーボエだけが 4/4 拍子で  超絶技巧を披露するポリリズムの箇所!!か。                              


2026年4月16日木曜日

モーツァルト  ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲第1番&2番_グリュミオー

 


モーツァルト  ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲第1番 ト長調&第2番 変ロ長調 K.424、グリュミオー(Vn.)&ペリッチャ(Va.)(1968年録音)にて聴く。

まず、この2曲は、ザルツブルク大司教から6曲の二重奏曲を依頼されていたミヒャエル・ハイドン<ヨゼフ・ハイドンの弟>が、病気のために4曲しか完成できず困っていたので、モーツァルトが彼を助けるため、残りの2曲を代筆し、友人の功績として提出させたと言われています。ちなみに、M/ハイドンの4曲は、「ハ長調」「ニ長調」「ホ長調」「ヘ長調」らしい。なるほど・・・それでトと変ロにしたのか。

協奏的要素だけでなく、互いの掛け合いが絶妙で、曲の魅力度を増幅している。M・ハイドンの手法を取り入れたとあるが、モーツァルトらしいメロディも、そこかしこに散りばめられており、特にK424の 1. Adagio - Allegro 2. Andante Cantabile は、美しく昔から大好きだ。

2026年3月31日火曜日

カリンニコフ 交響曲第1番_クチャル

今日は雨、そのうえ昨日の歩き疲れにて、引き籠りです。カリンニコフ:交響曲第1番ト短調、交響曲第2番イ長調、テオドレ・クチャル(C)ウクライナ国立交響楽団にて聴く。(ナクソス・ミュージック) 



2026年3月27日金曜日

モーツァルト カンタータ「悔悟するダヴィデ」k.469_マリナー

モーツァルト:カンタータ「悔悟するダヴィデ」k.469

ネビル・マリナー(C)マーガレット・マーシャル(ソプラノ)イリス・フェルミリオン(ソプラノⅡ)ハンス・ペーター・ブロホヴィツ(テノール )シュトゥットガルト放送交響楽団、南ドイツ放送合唱団を聴く。ハ短調ミサ曲k.427に2曲の新たなアリア(第6、8曲)加え、イタリア語(ダ・ポンテのテクストとされている;マッテイ『聖書の詩篇集』)の歌詞にて演奏されたことで有名。すなわち知っている人は知っている。


2026年3月25日水曜日

モーツァルト 弦楽四重奏曲 第16番_ハーゲン弦楽四重奏団


モーツァルト 遡って弦楽四重奏曲を聴いていこう。その⑧

弦楽四重奏曲 第16番 変ホ長調 K.428 (421b)、ハーゲン弦楽四重奏団<199.5録音>にて聴こう。

冒頭からして如何にこの時代に異質な表現であったから伺える、4人のユニゾンによるオクターヴに上昇するテーマ、あれ確か変ホ長調だよねと首をかしげたくなる。ハーゲンSQは、ノン・ビブラートに近い澄んだ音色と、完璧にコントロールされた強弱の移ろいが素敵だ。また、アーティキュレーションを鋭敏に捉え、フレーズの語り口に独特の「間」や「溜め」を作ることで、古典派の音楽に現代的な緊張感を与えている。K.428は、ハイドン・セットの中でも半音階的な書法が多用されており、内声(第2ヴァイオリンとヴィオラ)の動きが非常に重要だ。ハーゲンSQは各パートの独立性が極めて高く、内声部が浮き彫りになる点でK.428にはぴったりだ。第2楽章、アンダンテ・コンモートは、単に美しさだけでなく翳りの和声の変化に対応できるかが勝負だ。チェロの上昇3和音の形が音程を変えながら延々と続くのが好きだ。これに上声部が半音で動くことで生じる「不協和音の解決」が連続し、これが、モーツァルト特有の「甘美な痛み」や「ため息」のような表情を生んでいる。第3楽章、メヌエット、アレグロは、Trioだ!変ロ長調に転じ、半音階を多用したテーマを各パートがカワリベンタンに歌う。ハイドンへのオマージュを感じる部分だ。ちなみに16番は、17番<狩り>よりも後に書かれたらしいっす。



2026年3月24日火曜日

チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番_カーゾン

チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番変ロ短調OP.23, サー・クリフォード・カーゾン(P)サー・ゲオルグ・ショルティ;ウィーンフィル<1958年録音>を聴く。カーゾンと言えば、私の中ではモーツァルト27番だが、今回は、この奇天烈な組み合わせによる、これまたチャイコフスキーというミスマッチな作品を・・・。

しかし、ともにサーの称号を持つ2人の競演+デッカ&カルショーの録音。予想通りの「静と動」の対比が独特のテンションを引き起こしている。カーゾンの打鍵のパーカッシブな質感がリアルに捉えられているだけでなく、弦楽群のシルキーな手触りや、木管楽器の芳醇な響きも失われていない。とても1950年代とは思えない録音。フルパワーのショルティの引張りにカーゾンもウィーンフィルもよく堪えたなという気もする。第2楽章、ニーダーマイヤーのフルートがいい!!カーゾンの端正なピアノに寄り添う、あの「古き良きウィーン」を感じさせるフルートの響きは、まさにニーダーマイヤー時代のウィーン・フィルならではのものか。中間部で聴かれるヴァイオリンの旋律は、ボスコフスキー特有の柔らかく、かつ気品のあるヴィブラートやねぇ。カーゾンの流れるような音の粒、よかとです。終楽章、高速パッセージを余裕ぶっこいてこなすカーゾンのクールさは、たまらんです。

何故か爽快さの残る異色の名盤です。



2026年3月15日日曜日

シューマン 交響曲第2番 _アンセルメ

シューマン:交響曲第2番 ハ長調 OP.61、エルネスト・アンセルメ指揮 スイスロマンド管弦楽団 (録音:1965年4月<Decca>)にて聴く。                  

各楽器の個性を際立たせるアーティキュレーション、モダンで明晰な演奏といえよ   う。ゲルマン的かといえば、真逆であるのは当然と言えば当然か。特にこの2番ではトロンボーンとオーボエに着目してみた。シャポ率いるトロンボーン軍団は、極めて磨 き抜かれた真鍮の輝きを放つ。獺祭 でいえば、「二割三分」の超高精米。それが気品 ある輝きを放つ。リヴィエのオーボエは、旋律の輪郭が非常に鋭く、決して背景に埋 もれない。そしてアダージョのソロは、過度な感傷を排し、純度の高い謡い方で、悲 哀ではなく、高貴な寂寥感を感じさせる。リヴィエのオーボエやペパンのフルートが 持つ「細身で鮮やかな音」に対し、金管が「硬質で鋭い音」を重ねることで、オーケ ストラ全体の響きが多層的なパノラマのように広がる。オーケストラの「分離の良さ」 はDeccaの録音に支えられ、アンセルメが構築した音楽を見事に再現しているといえるだろう。


2026年3月14日土曜日

ベルリオーズ 幻想交響曲_パレイ

 ベルリオーズ 幻想交響曲 Op.14:ポール・パレイ(C)デトロイト交響楽団<1959年録音:Mercury>にて聴こう。お得意のMercury盤です。言わずと知れたパキッとした名録音。ミュンシュもいいがパレーもネ。



2026年3月12日木曜日

ドヴォルザーク 交響曲第5番ヘ長調OP.76_ビエロフラーヴェク

 ドヴォルザーク 交響曲第5番ヘ長調OP.76,B54 、ビエロフラーヴェク(C)BBC交響楽団<2006年録音>にて聴く。ビエロフラーヴェクは、録音された2006年に首席指揮者に就任している。

「ドヴォルザークの『田園』」と呼ばれているように、非常に牧歌的であるが、2楽章のチェロの憂いを帯びた美しい旋律でみられるようにメロディメーカーたるドヴォルザークの哀歌が混在し面白い。スケルツォは、スラブ舞曲風の快活なリズムが印象的。そして終楽章、非常にドラマチックだ。ヘ長調の曲でありながら、イ短調という暗い調性で激しく始まるが、最後は圧倒的なヘ長調の歓喜へと突入して締め括る。


2026年3月3日火曜日

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第1番&4番_カサドシュ

 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第1番&4番、カサドシュ(P)、ベイヌム(C)コンセルトヘボウ管弦楽団<1959年3月録音STEREO>を聴く。どうやらベイヌム逝去1が月前の演奏のようだ。

カサドシュのピアノは、あのモーツァルトで見せた珠のようなタッチで面白い。ベイヌムの描く透明度の高い音像、ヘボウ管の柔らかく繊細なサポート。貴重な1枚ですな。