2019年1月12日土曜日

ブラームス ピアノ協奏曲第1番_ケンプ



久しぶりにブラームス ピアノ協奏曲第1番ニ短調 Op.15を聴く。ケンプ(p)コンヴィチュニー;シュターツカペレ・ドレスデンによる1957年の録音(Mono)。ケンプの正規録音唯一の1番。第1楽章冒頭の序奏。少しゆっくりのテンポ、牡牛の行進の如き低重心の弦楽群の中から金管群の咆哮とティンパニーの地響。そこにはデモーニッシュな色彩が宿る。ケンプが如何に応えるのか?思わず息を飲む。しかしやはりケンプはケンプだ。繊細にして落ち着き払った音の粒。コンヴィチュニーはテンポを速めケンプを煽る。ケンプもしっかりした打鍵で見事に応えるが、流麗さはなく、華やかさもない。しかし、そんなことはこのコンビを選んだ時点で承知している。無骨さと繊細さをもち威圧感のない、東ドイツの田舎者の青年ブラームスの滾る思いが込められた第1楽章が聴きたかったのだから。これだ!
第2楽章、Adagio。優しい弦楽群の下降音に朴訥とした青年のようなファゴットが加わる。そして深い安寧と安らぎをケンプのピアノが引き継ぐ。セピア色、いや墨絵のようなこのモノローグを語るにあたり、このコンビは何と相性がいいのだろう。深い悲しみを湛えたメロディ。生真面目なケンプの音には静謐さが宿っている。
第3楽章、疾走感漂うピアノソロ。もたつきはするものの、何とか立ち上がる。その後ケンプの指は息を吹き返したごとく、よく動く。決して叩きつけるような威圧感をもたず、聴く者たちに疲れを感じさせない演奏といえばいいだろうか。さて一番好きな箇所は、コーダ直前のホルンから始まり木管群へと繋がりフルートが受け取る上昇音型。交響曲1番でも見せた、この自己陶酔型幸福感が堪らなくブラームスを愛くるしいと思う瞬間だ。そういえば今日は、一歩も外へ出なかったな。

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