2020年8月29日土曜日

ブルックナー 交響曲第7番_アイヒホルン

ブルックナー 交響曲第7番 ホ長調 (Nowak版)、アイヒホンル、リンツ・ブルックナー管弦楽団。(1990年録音)
コロナ禍がなければ、来月おとずれる予定だった「リンツ:ブルックナーホール」にて録音された演奏を聴く。無念。
リンツは、モーツァルトが交響曲第36番「リンツ」をベートーヴェンが交響曲第8番を作曲したオーストリアの第3の都市。 そしてブルックナーが生まれ、この街の旧聖堂のオルガニストを務めていた。リンツ・ブルックナー管弦楽団は、リンツ州立劇場のオーケストラであったが、1968年に「ブルックナー管弦楽団」の名称を冠する。アイヒホルンは、この7番を皮切りにブルックナーチクルス録音を始めたが「5.2.9番」を終えた段階で道半ば逝去した。滋味に満ちた優しさ溢れる柔らかな演奏。何ら小細工なしに、ブルックナーのゼグエンツ、和声を紡いでゆく。


2020年8月20日木曜日

サン=サーンス 交響曲第3番「オルガン付き」_パレー

サン=サーンス 交響曲第3番ハ短調 Op.78「オルガン付き」、ポール・パレー:デトロイト交響楽団、(Or)マルセル・デュプレ(1957年録音)を聴く。まず最初に「オルガン付き」となっているが実は「オルガン・ピアノ付き」であることを断わっておこう。第1部①、序奏部、弦楽の下降音に、オーボエが上昇音で応える。主題は、死の象徴としてのグレゴリオ聖歌「ディエス・イレ=怒りの日」の旋律を循環主題として用いているのだが、出だしがシューベルトの未完成と同じ音型<16音符1拍ずれ>をしているのも興味深い。第1部②に初めてオルガンが登場。その神秘的な変ニ長調の主和音に乗って、弦楽群が奏でる少し悲し気な主題が何ともいえず心を打つ。中間部、第1・第2ヴァイオリンが掛け合いを始め、ピチカートが循環主題を再現したあと、再び弦楽群による主題を謳い宗教的な法悦に導かれる。
第2部①、ティンパニーを伴ってエネルギッシュに弦楽が奏でる有名な旋律。「宝酒造」を思い出す。トリオでピアノが登場。木管と戯れながらリリカルに舞う。第2部②、ハ長調のオルガンの印象的な和音に導かれ、①後半で暗示されたコラールが展開されると、リリカルなピアノが循環主題を長調で変奏され、オルガンのトッティと金管のファンファーレが壮麗なカテドラルを構築する。弦楽のフガートが始まるとクライマックスへ向けて荘厳さが増してゆく。ラスト、ティンパニーとオルガンが絢爛たるハ長調を決め込み金管が咆哮するともうブラボーとしか出てこないだろう。



2020年8月11日火曜日

ベートーヴェン 交響曲第2番_コンヴィチュニー

今週からまた暫く在宅勤務が続く。そして恒例の盆休みの下関帰省も今年は断念。とはいえ来週は暑休休暇。如何にして過ごすかと思案しながら音楽鑑賞。
ベートーヴェン 交響曲第2番ニ長調OP.36を聴く。コンヴィチュニー、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(1959年録音)にて。2番は、最も地味で中々演奏会でも扱われることのない影の存在。しかし、モーツアルトのジュピターを引き継ぎ、第九へと通じる下地的な曲であり、「遺書」を書いた1802年にハイリゲンシュタットで作曲された実はかなり重要な曲でもある。楽曲的にも長い序奏の展開、メヌエットからスケルツォへの変貌など革新への下地でもある。今晩のように、ちょいとベトシンでも聴こうかとした時に手に取るのはコンヴィチュニー盤。その分厚い音の響きが安心感をもたらす。低重心でありながら木質な弦楽群、まろやかな木管群が耳に心地よい。第1楽章、序奏部途中、ニ短調のアルペジオの下降旋律に第九の予感を感じる。第2楽章は、この曲の白眉ともいえる。一般的なベートーヴェン像を覆す甘美で優しさに満ちたメロディ。しかしコンヴィチュニーはそんな情緒にとらわれず、男前に演奏する。しかし弦楽群の暖かみのある音色が加わりいい塩梅となっている。弦楽群とホルンとの対話、フルートとオーケストラの対話も楽しみたい。第3楽章、非常に短い舞曲であるが、トリオにおいて第九のトリオを暗示させる。強弱・高低の面白さも味わおう。終楽章、快速展開。チェロの温かな主題に続いて木管群の第2主題が即座に現れる。キビキビとした動きの中で、管楽群が有機的に絡んでくる。ひっそり始まると思いきややや情熱的なコーダに胸を弾ませながらエンディングを迎える楽しさを有難う。2番、たまに聴くといいですね。


2020年8月2日日曜日

マーラー 交響曲第1番「巨人」_アンチェル

カレル・アンチェルのマーラーの録音は、1.5.9番しかない。
いずれも素晴らしい演奏であるが今日は、その中で1番ニ長調「巨人」を聴こう。チェコフィル【1964年録音】。
第1楽章、まず驚かされるのが、弦楽群のAのフラジオレットに乗せて下降するオーボエとファゴットに始まり、登場する木管群の良質の音色、そしてホルンのいかにも牧歌的な響き。チェロの第1主題が始まる頃には、誰もがこのバランスの良い色彩感に魅了されているであろう。そうボヘミアの「朝の野ばらを歩く」姿が明確に見えてくるようだ。またノヴァークのフルートが素晴らしい。展開部のホルン斉奏後の弦楽群の何とシルキーで魅了的なこと。すべての楽器が明確に分離され耳に届けられる。アンチェルの尋常ならざるバランス感覚の成せる業か。第2楽章、低弦による力強いオスティナート・リズムによる心地よいテンポ。中間部の弦楽群の優美さ。第3楽章、コントラバスで始まるフレールジャック。決して重すぎず淡々と。オーボエも巧い。中間部の弦楽群も艶っぽい。第4楽章、激しい中にも美しいと表現したくなるのは、アンチェルの品性の由縁か。(余談だが、展開部で好きな所はハ長調で凱歌を挙げると見せかけてニ長調へ上昇するところ)管楽器を含め、巧みに音量がコントロールされ、決して暴発しない。コーダ直前に徐々にテンポをあげながらコーダ・フィナーレに突入するさまもアンチェルならではの至芸。更に付け加えるなら、ケイマル入団前にもかかわらずトラッペットの巧さ。アンチェルも是非、チェコフィルで5番を録音しておいて欲しかった。